飛龍伝2010 ザ・ラストプリンセス

ものすごくひさしぶりの更新(。。;)
去年の11月からこっち、個人的に色々あったのですがそれはおいといて。ひさしぶりの観劇記は「飛龍伝2010 ザ・ラストプリンセス」@新橋演舞場でした。

小説版「飛龍伝 神林美智子の生涯」が大好きなので、舞台を一度見てみたかったこの演目。それでも二等席でみたのはお金がなかったからだよ!
全共闘40万」を率いる神林美智子に黒木メイサ、学生を取り締まるはずなのに美智子に惚れて守りまくる機動隊隊長、山崎一平に徳重聡、委員長になるか…という地位から器の小ささを露呈して追われる美智子の恋人、桂木順一郎に東幹久のキャスト。沖縄基地移転問題の影響があるのか、沖縄と本州の関係や原発・核問題が時事問題として折り込まれた改作です。なんと美智子は「琉球王女」。ラストプリンセスて…ああ、そういう意味なんだ…ということですね。その「ラストプリンセス」なるハデな装飾がそれ以上の意味を持たなかった、少なくともあまり持ってるように見えなかったのはもったいない気もしましたが…まぁそれはそれで。「熱海殺人事件」もそうですが、色々なバージョンがあって、ベースの人物やあらすじが他の問題を盛り込む容器、あるいは媒体として使えるのは面白いです。「革命やってる学生さんは就職すればいいけど、機動隊はずっと機動隊なんだ」とか、「働きもせずに何万も仕送りもらってる学生がとく社会主義とやらは、頑張って働いて農園開いて、おいしいリンゴをつくるんだって笑ってるおやじから財産とりあげるものなのか」とか、そういう哀しい不合理さへの疑問がもともとの作品にはあって、今回はそれが自衛隊問題に使われている。原発の臨界を鎮めるために美智子が沖縄のセクトの学生を派遣した、でもがたがた震えて進めなかったから自衛隊が行った、そして被爆した。「そんな時に呼ぶんなら自衛隊は要らないなんて言うなよ」と。


しかし今回黒木メイサの演じていた美智子はほんとに「お嬢様」という感じでした。先に言っときますが黒木メイサ、きれいでした。まっすぐはきはき台詞を吐く姿には凛とした美しさがありました。でも、それ以外の感想が出てこなかった。

私の中には「神林美智子の生涯」で勝手につくりあげたイメージがあったのかもしれませぬ。どっちかというと「嫌われ松子の一生」に近いイメージ。親族郎党の中で相手にされずに、必死で勉強して東大理三に合格し、地方からひとり東京まで出て来たのに、折からの学園紛争に巻き込まれ、どうしょうもない男たちに次々ひっかかる。作戦のために山崎一平宅に潜伏し、愛してしまって子供を産んで、最後はその人に殺される。あんた何しに大学きたのと言いたくなるような転落人生です。生まれはお嬢で所属はエリートと表面は上流かもしれないけど、当たり前のように愛し愛されるということを知らない美智子の心は社会最下層。それでも愛したい、愛されたい、家族が欲しかった、理想を追いたかったと必死で求める美智子の中に美しさがあるのだし、いろんな男性にふらふらしているようにみえても、そのさみしさと純粋さが美智子の「芯」なのだと思ってました。それが芯まで「プリンセス」になってしまった結果、必死さという魅力が見えなくて、感動できなかったかな、と。這い上がろうとする必死さってすごいもんがあると思うので。というか、あらすじを知らずに見た人は何で美智子があんなに次々男の人を好きになるのか、最後の身の上話だけで納得できるものなんだろうか。


かてて加えてどうも私は弱いものの方に目がいくらしく、個人的に一番好きだったのはカラテカの矢部さん演じる下っ端「ひょっとこ」です。瓶底メガネをかけた美智子を「ブスで三流大学出」だと勝手に思い込んで、「ぼく病弱だからさ〜、きみみたいなブスとは相性がいいと思うんだよね」とかたぶらかす男。ひどいこと言ってるんだけど愛嬌とみじめさがあって憎めないキャラです。あっでも最後はちょっとかっこよくなります。お嬢だと素性がわかって桂木の女になる美智子に「俺のこと騙して楽しかった!?」って叫ぶシーンはぐっときました。美智子が神林財閥の一族で美人、とわかった瞬間「おれの女になってもらいます」という桂木もどうかと思うけど、桂木に不合理に彼女を奪われて蹴り飛ばされながら「どうぞひょっとことお呼び下さい、ただ、俺、役職が欲しいんです」と、ひょっとこのお面(実物)つけて顔上げる姿には涙ぼろぼろだったんですが、みんな笑ってるんですよね…あれ、おかしいなぁ;つか作品は時々、私が泣きたい場面で周りは笑います;;くやしさに共感するより滑稽さに笑えるのはある幸せだからかもしれないけど。そして滑稽さに笑うよりくやしさを見てしまうのは私が歪んでるからかもしれないけど;そんなどうしょうもない行き違いって、あるもんですよね。まぁ、それもつか作品の魅力ということで。


ちなみにつかこうへい劇団自体も今年は「飛龍伝2010」を上演するようですね。こちらもチェックしたいです。…だいぶ先ですが。